こんにちは。スプラッシュトップ編集部です。
Thin(薄い)Client(クライアント端末)を意味するシンクライアントは、クライアント端末の機能を最小限に抑えつつ、アプリケーションの実行処理やデータ保存などをサーバー側に一任するシステムの構築方式です。
新型コロナウイルスの感染拡大で社会のデジタル化が進み、同時にセキュリティ対策の重要性が増すなか、シンクライアントへの注目度が高まっているといわれています。
一方で、シンクライアントは初期導入コストが想定以上にかさむ上、導入に際して企業が情報管理体制の刷新を求められることから、導入や運用のハードルが高いのが実情です。
本記事では、シンクライアントの概要から導入するメリットやデメリット、シンクライアントの種類などを分かりやすく解説します。
シンクライアントとは? 仕組みをわかりやすく解説
シンクライアントは、ノートPCなどのクライアント端末での表示、入力などの処理を必要最低限に抑える一方、データの加工編集などの大半の処理を、ハードウェアから離れた中央サーバー側で行う一連のシステムのことです。
クライアント端末の機能を限定し、ハードウェアコストを抑えるとともに、データ処理を中央サーバーに集約することで、システムの運用管理コストの抑制や情報漏洩を防止することを目的としています。
一見、目新しいシステムのように見えますが、シンクライアントは最近登場したものではありません。技術や概念そのものは、1996年にオラクル社がネットワーククライアントシステム「Network Computer」を発表したのを機に広まり、すでに大企業や官公庁などで導入が進んでいます。
シンクライアントを導入するメリット
シンクライアントを導入するメリットとして、以下の3つが挙げられます。
- セキュリティリスクが少ない
- OSやアプリケーションの一元管理が可能
- 耐久性に優れている
ここからは、この3つのメリットについて、詳しく解説します。
セキュリティリスクが少ない
シンクライアントは、クライアント端末にデータを保存できないため、情報漏洩のリスクを回避できます。
例えば、情報漏洩を意図的に引き起こすマルウェアがクライアント端末に侵入したケースを想定してみましょう。
この時、ユーザーがマルウェアのダウンロードを開始しても、サーバーを保護するファイアウォールが、ハードウェアから届いたマルウェアの指令をブロックします。結果、情報漏洩の発生を未然に防止できるのです。
また、ユーザー個人によるアプリケーションインストールもできないため、悪意のあるユーザーがもたらすセキュリティリスクも回避します。
OSやアプリケーションの一元管理が可能
シンクライアントは、OSやアプリケーションをサーバー側で一元管理することが可能です。
これにより、OSやアプリケーションのセキュリティ対策、アップデートなどの日常的な作業が、中央サーバーを制御する1人のIT担当者で完結できます。
結果、IT担当者がインストールやトラブルシューティングのために、わざわざ一つ一つ一つひとつのクライアント端末をメンテナンスする必要がなくなり、安全性とともに、管理効率が向上するでしょう。
耐久性に優れている
シンクライアントは、クライアント端末に壊れやすい稼働部品が少ないため、故障する確率が低く、耐久性に優れています。
どのくらい稼働部品が少ないのかというと、例えば、高性能の画像カードや、ストレージ用のハードディスクをクライアント端末に搭載する必要がありません。
加えて、メモリやマイクロプロセッサーの稼働率も、ファットクライアントを稼働させる場合に比べ低くなるため、消費電力を従来の8分の1から20分の1ほど小さい約8〜20ワットに抑えることができ、故障確率も低減できるのです。
シンクライアントを導入するデメリット
コスト削減の面でメリットが大きいシンクライアントですが、デメリットが存在しない訳ではありません。主に、下記の3つのデメリットがあるといわれています。
- コストがかかる
- サーバーへ負担がかかる
- アプリケーションが遅くなる
ここからは、この3つのデメリットについて解説します。
コストがかかる
目的と逆説的な内容ですが、シンクライアントは、特に昨今の主流な方法であるVDIなどを利用して導入する場合、従来のPCと比べて初期導入コストがかかります。
仮想的なPC環境に最新のウイルス定義ファイルなどが適用されたOS、アプリケーションをインストールするVDIは、シンクライアント端末に加え、VDI基盤の作動に必要なサーバーやストレージ、制御ソフトウェアが必要になるからです。
さらに、クライアントOSにWindows®︎7/Windows®︎8を使用する場合はWindows®︎ Virtual Desktop Access(VDA)と呼ばれるライセンス費用がかかります。
これらの導入コストがかさむ結果、シンクライアント導入によるコスト削減効果を相殺し、思ったような費用対効果を得られない可能性があります。
サーバーへの負担がかかる
シンクライアントは、OSやソフトウェアの情報処理をサーバーが一手に担うため、サーバーにかかる負担が大きくなります。
サーバーへの過剰負荷は、情報処理の速度低下を引き起こしやすく、比較的操作が容易な操作でさえ、応答障害が起こる可能性があるでしょう。
これらのシステム障害を防ぐために、企業は、強力なサーバーと高速通信・広帯域のネットワークインフラに投資する必要があり、初期導入コストにも増してコストがかかる恐れがあります。
不具合が起きると全社員に影響する
シンクライアントは、サーバーやアプリケーションに不具合が生じた場合、接続している全社員の端末に影響が及んでしまいます。また、ネットワークに障害が発生した場合、シンクライアントは別の接続方法を採用しない限り、ネットワークに接続できず、使用できなくなってしまいます。
結果、全社員のクライアント端末で処理されている作業プロセスが停止し、生産性が低迷してしまうのです。
このように、その箇所が停止するとシステム全体が停止してしまう“単一障害点”を抱えているといえるというのも、シンクライアントのデメリットといえます。
シンクライアント環境の種類
シンクライアント環境には、主に下記の2つの種類があるといわれています。
- 画面転送型
- ネットブート型
ここからは、この2つのシンクライアントの実現方式について解説します。
ネットブート型
ネットブート型は、端末起動時に、サーバー側からOSやアプリケーションのイメージファイルをクライアント端末に送り、メモリに展開して端末側で動作する方式です。
ネットワークを介すため、ローカルから起動する場合と比べて時間がかかりますが、起動後は、通常のPCと同じように利用できるほか、アプリケーションの制約がないといったメリットがあります。
また、すべてのユーザーが単一の環境を使用する場合には、ソフトウェアの管理が容易なのも特徴です。
一方で、端末起動時やデータの読み書き時にネットワークに負荷がかかるほか、ユーザーごとに異なる環境を利用する場合には環境ごとにイメージファイルが必要になるため、管理工数がかかるといったデメリットもあります。
画面転送型
画像転送型は、アプリケーションの実行などの処理をサーバーで行い、クライアント端末にはその結果の画面のみを表示させる方式です。クライアント端末からキーボードやマウスの入力情報をサーバーに送信し、その後の処理はすべてサーバーが行います。
ソフトのインストールやバージョン更新といった作業を全てサーバー側で一括実行でき、クライアント端末を1台1台管理する手間が省けるのが特徴です。
一方で、画像情報をやり取りするため、画像の変化が激しい動画のようなアプリケーションを苦手とする点などがデメリットとされています。
こうした特徴を持つ画像転送型は、さらに次のように分類されます。
●ブレードPC型
ブレードPC型は、ブレードPCと呼ばれる、メモリやCPU、ハードディスクなどを搭載した専用のPC端末をユーザーごとに用意し、シンクライアントを稼働させる方式です。ユーザー分用意したブレードPCとクライアント端末を1対1で接続し、サーバー側で一元管理します。
ユーザーはメモリやOS、アプリケーションを占有できるため、他のユーザーからの影響を受けにくいうえ、機能の占有によりハイパフォーマンスな作業環境を構築しやすいとされます。
一方で、ユーザー数分のハードウェア、ソフトウェアライセンス等が必要であるため、必要経費が多く、費用対効果では他の方式に比べて劣る点がデメリットといえるでしょう。
●サーバベース型
サーバベース型はサーバー側で実行したアプリケーションを全ユーザーで同時に共有する方式です。
1つのサーバーで複数のユーザーを束ねることから、クライアントの集約率が高く、必要なソフトウェアライセンスが少ないほか、高性能なサーバーを用意する必要がないため、費用対効果に優れているというメリットがあります。
ただし、複数のユーザーでシステムリソースやOS、アプリケーションを共有するため、ユーザーごとの自由度は高いとはいえません。また、OSやアプリケーションもマルチユーザーに対応していなければいけないという前提条件もあり、環境構築の準備に労力を使うでしょう。
●デスクトップ仮想化(VDI型)
デスクトップ仮想化(VDI型)は、仮想化技術を活用し、サーバー上にユーザーごとの仮想デスクトップ環境を用意し、シンクライアントを稼働させる方式です。
この仮想デスクトップ環境にアクセスするには、専用のクライアント端末や端末上で実行されるクライアント端末専用のソフトウェアを利用します。
この結果、データセンターで各ユーザー環境を集中管理できるうえ、ユーザーは環境を独占できるため、管理負担を軽減しつつ利便性の向上も期待できます。
「ブレードPC型」と「サーバベース型」の両方のメリットを持ち合わせた方式として、現在、この方式がシンクライアントの主流となっています。
シンクライアント端末の種類
シンクライアント端末にもいくつか種類があります。
- デスクトップ型
- モバイル型
- USB型
- ソフトウェアインストール型
ここからは、それぞれの端末の特徴やメリットについて解説します。
デスクトップ型
デスクトップ型は、専用OSや組み込み機器向けOSのWindows 10 IoTが搭載され、最小限の機能で構成されたデスクトップPC型端末です。
デスクトップ型は、搭載されるCPU(コア)の質が高く、PCの基本性能が高いほか、あらゆる機器と接続できるという特徴があります。通常のPCと同等レベルの環境を作りやすいとされ、デスクトップ仮想化と併せて利用するのが主流となっています。
モバイル型
モバイル型は、利便性に優れ、持ち運びもできるノートPC型の端末です。モバイルPCと同様のモビリティを持ちながらも、一部PCでは、4G LTEネットワークの利用も可能となっています。
コンパクトで場所を取らないため、在宅勤務にも適した端末といえます。
USB型
USB型は、既存のPC端末にUSBを差し込んでシンクライアント化させるUSB型端末です。
クライアント側で必要となるOSやアプリケーション、データは全てUSB端末に集約できるため、初期導入時のコスト削減を図れ、導入も容易といったメリットを有します。一方で、USBは持ち運びが容易であることから、盗難や紛失のリスクが高いというデメリットもあります。
ソフトウェアインストール型
ソフトウェアインストール型は、既存PCにソフトウェアをインストールしてシンクライアント化させるソフトウェア型の端末です。
ソフトウェアインストール型は、USB型と同様、低コストかつ容易に既存PCをシンクライアント化できるのがメリットです。中央サーバーから専用端末の更新と設定が可能であるなど、セキュリティレベルの高い環境構築ができる利点もあります。