小松IT就労支援センター株式会社
石川県小松市にある就労継続支援A型事業所「ひまわり工房」では、一般就労が困難な方や障害を持つ方々の社会参加を支援しています。同施設では、Splashtopを活用したリモートワークの導入を通じて、利用者が働きやすい環境を実現する新しい支援の形に取り組んでいます。
本記事では、リモートワークを活用した具体的な業務内容として、Chromebookを用いたSplashtopの検証作業を中心に、利用者支援におけるリモート環境の効果と課題を掘り下げます。
目次
■就労継続支援A型「ひまわり工房」について
──まずは、小松IT就労支援センター株式会社の事業内容について教えてください。
北氏: 弊社は障害福祉サービスを提供しています。具体的には三つのサービスがあります。まず、就労継続支援A型というサービスで、障害をお持ちの方をパートアルバイトとして雇用し、就労機会を提供しています。次に、就労定着支援で、福祉施設から一般企業に就職した方を最長三年間サポートするサービスです。最後に、相談計画というサービスで、利用者やその家族と相談しながら適切な福祉サービスを選ぶサポートを行っています。
──今回は、就労継続支援A型「ひまわり工房」についてお話を伺いたいと思います。ひまわり工房ではどのような作業をされていますか。
北氏: ひまわり工房で働く利用者の多くは、精神や発達にさまざまな特性を持った方です。その中には、強いこだわりがあったり、じっと座っていられなかったりする方もいます。そのため、様々な作業の中から、個々の特性を尊重し、それぞれの適性に合う作業内容を振り分けられるようにしています。
主に、パソコンを使った作業と内職作業があります。パソコンを使う作業は、大きく分けるとAutoCADを使った二次元の図面の作成とデータ入力の2種類です。AutoCADを使用した仕事内容はハーネスの図面作成で、データ入力は、アンケートデータや書籍の指定箇所の入力などがあります。内職作業は、乗用車の製造に使用されるチューブのカットや加工、スポンジにテープを貼る作業、お菓子の詰め作業やテレアポなどを行っています。テレアポと言っても、福祉業界のセミナーのご案内など内容を考えてお受けしているので、実際に働く利用者の方も負担は少ないと思います。
■Splashtopを使用することになったきっかけと使用感は?
── Splashtopを導入したきっかけと使用感について教えてください。
北氏: コロナ禍の影響でSplashtopを導入しました。現在は、CAD班のメンバー1名が週に2回リモートで作業しています。使用感について、「ずばり、良いの?悪いの?」と尋ねたところ、「良い」という回答で、私としては意外な反応でした。自宅の方が集中しやすく、パフォーマンスが上がるとのことです。本人としては、毎日在宅で作業していい環境になれば嬉しいと思うのですが、彼はCAD班のリーダーで、他のメンバーと現場での確認作業が必要な場面もあるので、現状は難しいですね。
リモートワークの課題もあって、机にある資料を確認したかったり、他の利用者に質問したりする時です。物理的に同じ場所にいれば、ちょっとした確認もすぐにできるのですが、リモートだとメールやチャットでのやり取りが必要になります。利用者の皆さんは律儀な方が多くて、くだけた表現の文章ではいけないと丁寧な文章を心掛けて作ってくださるので工数が増えることもあるのですが、それでも作業全体のパフォーマンスはあがるそうです。
野村氏: リモートワークのメリットとしては、周りの音や視線が気にならないことでしょうか。利用者から言葉として聞いたのではありませんが、他の利用者の方の声とか発言とか視線とかが気にならないというところじゃないかな。「緊張しない」というニュアンスのことは言っていたように思います。工房では、複数の利用者が同じ一つの部屋で、内職作業などはどうしても声による確認が多いので、常に喋り声が聞こえるような環境ではあるんです。自宅だとそういう喋り声とかも聞こえないので、音がなくて集中できるというニュアンスなのかなと思います。他の人の会話が聞こえると「自分について言われているのではないか?」と、少し身構えてしまうことも……。
北氏: そのような例だと、感覚過敏のため、医師の診断を得たうえでガッチリとしたヘッドセットを着用し、一定の条件の下、音楽を流して外部の音を遮断しながら作業をしていた利用者もいましたね。
野村氏: あとは、利用者だけでなく、事務所に出社できない状態になったスタッフが使ったり、派遣のような形で別の作業所に行っている職員が小松のパソコンにリモートでアクセスして作業をしたりしています。どうしても利用者の状況の記録とか必要ですが、そのようなデータやファイルは客先に持っていけないので、現場からオフィスに接続して問題なく作業できています。
■ChromebookによるSplashtopの動作検証
ここで、スプラッシュトップ株式会社が依頼させてもらった作業内容についてご紹介します。私たちが依頼した作業の内容は、「ChromebookからSplashtopを使用した場合の検証作業」です。Chromebookとは、Googleが開発したChrome OS を搭載したコンピューターの総称なので、端末を販売する各メーカーによりキーボードの配置が微妙に異なっていたり、アップデートでバージョンが変わると、それまでとは異なる挙動になったりすることがあるため、その度に検証していく必要があります。さらに、全てのキーを検証するとなると、長時間の集中力が必要となり、スピードより正確性がとても重要になる作業です。
以前は弊社内で検証を行っていたのですが、とても工数のかかる作業であるだけではなく頻度が高いこともあり、社内で行うのが大変になってきていました。そこで、ひまわり工房の皆様に検証機と検証項目を一覧にしたExcelを共有し、作業を行っていただきました。
実際に担当した弊社社員に感想を聞くと、丁寧に検証作業を行ってくれただけではなく、Excelにもわかりやすく記入されていて、複数回のチェックの後に納品してくれたので、納品物のクオリティが高く、とてもありがたいと話していました。
■ひまわり工房の得意な作業・苦手な作業
──利用者の方々が得意なことや苦手なことはありますか?
北氏: 利用者の得意なことは、品質にこだわる作業です。例えば、10cmのカット指示に対しても、1mmのズレも許さないほどのこだわりを持つ利用者もいます。その一方で、曖昧な指示や手書きのデータ入力は苦手な場合があります。また、“適当”な加減が難しい方も多く、組み立て作業を行うにしても「(ネジや蓋などを)こう締めてください。」という指示では締める加減がわからず、大人でも開けられないような強さで締める方や、横にしたら外れてしまう位の弱さで締める方もいるので、利用者それぞれの強みを活かし、適切な指示や環境を提供するようにしています。
──就労支援施設に仕事の相談をする際、気を付けた方が良いポイントはありますか。
野村氏: 例えば、文字起こしをした時「いただきます」を漢字にするかひらがなにするかなど、細かい点でも仕様書を基に作業しています。基本的には、弊社内で仕様書を作成し、それに沿って作業をするのですが、こちらで判断が難しい場合は、お客様に質問させていただくこともあります。作業を進める中で、利用者からの質問で「そんな解釈もあるのか!」と新しく疑問が出てくることもありますし。
北氏: その都度、質問していたらお客様側に負担がかかってしまうので、お客様の許容範囲や方針をくみ取れるようになってからは、こちらの判断で進めていくのが現実的な進め方になるかなと思います。
■今後のひまわり工房について
──弊社からのご依頼させていただいたように、県外からの依頼も多いですか?
北氏: そうですね。東京、大阪、京都、福岡など様々です。企業はもちろん、大学などからの依頼もありますし、ご依頼いただいた方からの紹介でお仕事をいただくこともあります。個人的な仕事のやり方ですが、先方から信頼を得られるよう、可能な範囲で一度は直接お話しする機会を作るようにしています。
最近、ドローンを扱う企業と知り合う機会がありました。以前、弊社のような施設にドローンショー用のドローンの組み立てを依頼したことがあるそうで、私からお声がけさせていただきました。今後なにかしらの形でお仕事をご一緒できそうで、個人的にちょっとワクワクしている私がいます。また、そういう楽しいお仕事だったら、利用者の方でも、よりやりがいを感じてくれる人が一定数いるのかなと私の中では思っています。